2008年07月31日
杉本鉞子(えつこ)
お稽古の二時間の間、お師匠様は手と唇を動かす外は、身動き一つなさいませんでした。
私もまた、畳の上に正しく座ったまま、微動だも許されなかったものでございます。
唯一度、私が体を動かしたことがありました。丁度、お稽古の最中でした。
どうしたわけでしたか、ほんの少し体を傾けて、曲げていた膝を一寸緩めたのです。
すると、お師匠様のお顔にかすかな驚きの表情が浮び、やがて静かに本を閉じ、厳しい態度ながら、やさしく「お嬢様、そんな気持で勉強はできません。お部屋に引きとって、お考えになられた方がよいと存じます」とおっしゃいました。
あの時のことを思い出しますと、今もなお打傷の痛みのように、私の心を刺すものがございます。
-[1873-1950] 長岡藩家老の娘 コロンビア大学講師 杉本鉞子(えつこ) 「武士の娘」より-
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