――「太初(はじめ)に言(ことば)ありき」と書いてある。ここでもうつかえてしまう。さてどうしたものか――
己は「言」というものをそれほど尊重する気になれぬ。己の精神が正しく活動しているとしたなら、ここでは別の語を選ばずばなるまいな。
――「太初に意(こころ)ありき」ではどうであろうか。筆が滑りすぎぬように、第一行をじっくり考えねばなるまい――
森羅万象を創り出すものは「意」であろうか。いや「太初に力ありき」としなければなるまい。
だがそう書きながら、すでに何者かがそれでは不十分だと己の耳に囁く。
ああ、どうにかならないか、
――そうだ、うまい言葉を思いついた。こうすればいい。
――「太初に行(おこない)ありき」――
[1749-1832] ドイツの詩人・小説家・科学者 ヨハン・ウォルフガンク・フォン・ゲーテ「ファウスト」 高橋義孝訳より



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